魚介類の必須脂肪酸(リノール酸/αリノレン酸)バランス
日本は四方を海に囲まれ、昔から海産物を多く食べてきた。
ところが最近、遠洋漁業が制限を受け、
沿岸が汚され、漁業がだんだんと難しくなってき、
結果として栽培漁業が盛んになってきた。
栽培漁業では、余るほど取れたイワシなどが餌となるが、
それだけでは十分ではないので、配合飼料が使われる。
もし配合飼料にコーンや大豆を使うと、
これらのリノール酸/αリノレン酸バランスは、
リノール酸に偏っているので、
魚の脂肪酸もリノール酸系列に偏ることになる。
実際、アメリカで養殖されているナマズの一種は、
魚の脂肪酸とは思えないほど、
リノール酸をたくさん持っている。
養殖アユと天然アユの脂肪酸を比べてみると、
天然アユは石についている藻類などを食べるので、
αリノレン酸を多く含んでいるのに対し、
養殖アユではリノール酸系列が多くなっている。
ネズミの成長には、リノール酸が必須であるのだが、
魚の成長には、αリノレン酸が必須であるという報告があるので、
魚の餌には海藻類を多く与える工夫が必要だと思う。
またそのことによって、
私たちがとるαリノレン酸系列も増やすことができる。
同じ魚でも、養殖魚は天然ものより、
リノール酸/αリノレン酸バランスが悪いのは事実であるが、
これら養殖魚でも鳥獣肉類に比べれば
リノール酸/αリノレン酸バランスをはるかに良いので、
とりあえず現在のところ、天然ものと養殖ものとにかかわらず、
「魚類はαリノレン酸系列が多いので健康に良い」
と考えておいてもよいだろう。
魚のよさは食べ方次第
日本人は今でも魚介類を多く食べている。
ところが昼食でレストランに行くと、
魚類はほとんどが揚げ物で、煮物、焼き物は少ない。
魚類の揚げ物が増えたのは、味や魚臭の問題以外に、
高温で揚げることによって
食中毒を少なくできるというメリットもあるだろう。
しかし、魚類をリノール酸の多い食用油で揚げると、
魚の持っているαリノレン酸系列の脂肪酸の作用が
ほとんど相殺されてしまう。
魚の良さは、調理の仕方で変わってくるので、
ここは主婦の腕の見せどころだろう。
一時、リノール酸/αリノレン酸バランスの良い寿司が
高価になって、庶民の手に届きにくくなった。
そんな中、比較的安い寿司チェーンが増えてきたのは
喜ばしいことである。
魚の種類を選択することは必要なのか
魚の脂肪酸もやはり、
餌であるプランクトンの脂肪酸の影響を受ける。
そしてプランクトンの脂肪酸は、
温度や塩分などの影響を受けて変化する。
したがって、魚の脂肪酸は魚の種類によって異なるし、
漁獲のシーズンや場所によっても変わる。
しかし、一般的にアイコサペンタエン酸(EPA)など、
αリノレン酸系列の脂肪酸は他の食品に比べても多いので、
魚は一般に良い脂肪酸を持っていると考えてよいだろう。
養殖魚でも肉類に比べれば
はるかに良い脂肪酸を持っているので、
天然か養殖かにかかわらず、魚の脂肪酸はよいといえる。
だがそれでもなお、魚によって脂肪酸のよさに差がある。
魚介類の脂肪酸を評価するとき、
①飽和・一価不飽和脂肪酸の系列
②リノール酸系列
③αリノレン酸系列
④長鎖オリゴエン酸系列
を考慮することになる。
炭素長鎖系の脂肪酸は一般に燃やされにくく、
心臓に蓄積される傾向にある。
驚いたことによく食べるサケは、そんな脂肪酸が
総脂肪酸の20%以上、サンマでは37%にも及んでいる。
よって魚のあぶらは、①、②、④が少なくて、
③が多いものがよい。
例えばイワシ、ワカサギ、タラ、アナゴ、ハタハタ、
ムツ、カツオなどが良い脂肪酸を多く持っている。
貝類・海藻類の脂肪酸
貝類の脂肪酸は一般にアイコサペンタンエン酸(EPA)が多く、
長鎖オリコエン酸が少ないので、
魚類よりも脂肪酸の質がよいと言える。
ただし、健康食品などで宣伝されている貝類エキスは、
脂肪酸をほとんど含んでいない。
これらのセールスポイントは、
アミノ酸やビタミン、ミネラルなどである。
ついでに海藻類の脂肪酸を見てみると、
一般にαリノレン酸系列の脂肪酸が多く、
健康に良いといえる。
しかし残念なことに、野菜類と同様で、
脂肪含有量が非常に低い。
現在のようにリノール酸大量摂取の時代には、
海藻類の脂肪酸のよさが容易に打ち消されてしまうだろう。
やはりリノール酸系列の脂肪酸の摂取量を減らすことと
併行しなければならない。